研究概要 |
歯への侵害刺激が各臓器循環, 特に脳および心筋にどのような影響を与えるかについて実験動物を用いて研究を行ってきた. 脳循環について歯への侵害刺激に伴う急速な血圧上昇と平行して, 大脳皮質組織血流量は自動調節能の範囲を超えて急激に増加した. この際, 約30%のネコでは血液脳関門の破掟するものがみられた. 血液脳関門の破掟したものでは, 血圧の上昇とともに大脳皮質組織血流量も増加し, 脳循環の自動調節能に障害が出ているのが観察された. これらの血圧の上昇は, 30%笑気および70%笑気吸入あるいは1%ハイロン吸入により抑えられ, また大脳皮質組織血流量の増加も少ないことがわかった. 一方, イヌを用いた実験では下歯槽神経の刺激による血圧の急激な上昇により心筋内層, 外層ともに血流量が増加し, とくに外層は内層と比べ顕著であった. また, 組織酸素分圧は心筋内層, 外層ともにほとんど変化を示さなかった. このことは, 傷害刺激による急激な血圧上昇時の心筋の血流量が, 外層で調節されていることを示していた. また心筋の酸素需給関係はよく保たれていた. 本実験で行った脳や心筋といった重要臓器の循環は, 一般に各臓器の自動調節能によって保たれているが, 歯への侵害刺激では時として脳の一過性侵害を起こすことがあることがわかった. また, 侵害刺激による昇圧反応は30%笑気吸入により抑えられ, 臓器循環に対する影響も少ないことが明らかとなった. このことから, 歯科治療時の笑気吸入鎮静法の適用は, 患者の循環の安定を保つのに有用であることが立証された. なお, これらの臓器循環の研究を行うに際して, 組織血流量の連続的測定法を開発し, 大脳皮質, 心筋内層, 外層の血流量の経時的変化を測定した. これらは同時に測定した絶対量との間に良好な相関が得られ, 各種臓器循環の研究に広く利用されると考えられる.
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