研究概要 |
1.歯垢中フッ素濃度の検討:歯垢中のフッ素濃度は痕跡量から88.0ppmの範囲にあり、全体の約60%は10ppm以下であり、平均値は15.9±17.3(SD)ppmであった。一方、CaおよびPiは各々平均値で9.0±10.0(SD)μg/mgと8.3±4.9μg/mgであり、小学生よりも中学生でF,CaおよびPi濃度が有意に高かった。男女別では男子が若干高い値を得た。FとCa濃度,FとPi濃度およびFとCa/P比との間に有意な正の相関関係が得られた。更に、歯垢重量とF濃度との間には負の相関関係が見い出された。2.フッ素の口腔内残留量の検討:フッ素含有歯磨剤を用いる前の唾液中F濃度は0.01〜0.027ppmの範囲であった。フッ素含有歯磨剤で3分間清掃した後では、3分後の値として歯磨剤1g使用時に0.42ppm,0.5g使用時に0.26ppmと約1.6倍の差を認め、その後両者共に同じ傾向で減少した。3.歯垢中有機酸に対する検討:フッ素含有歯磨剤を適用する前の歯垢を10%ショ糖溶液で培養した上清の有機酸量は、乳酸が平均22.6ppm,ギ酸で平均8.8ppm,酢酸で平均15.5ppmであり、乳酸の産生が著しかった。一方、フッ素含有歯磨剤を4日間適用したところ、乳酸が平均12.0ppm,ギ酸が4.7ppmおよび酢酸が9.8ppmと全体に有機酸量が減少した。最も減少率の著しかったのは乳酸で46.9%の減少率であった。4.フッ素含有歯磨剤による歯垢F濃度の変化:フッ素含有歯磨剤を適用する前の歯垢中F濃度は平均7.0ppmであり、適用後のF濃度は平均21.2ppm(5日目)であり、約3倍の濃度差が存在した。5.歯垢中微生物の動態についての検討:総菌数をみると、フッ素含有歯磨剤を適用する前後で差は認められず、総連球数でも差は認められなかった。さらに、S.mutansの糖分解能を調べたが、いずれもフッ素含有歯磨剤適用による差は認められなかった。これらのことから、フッ素が微生物自体の生態に影響を与え得るかは疑問であり、今後共この方向で研究を推進して行く予定である。
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