研究概要 |
昭和60年度において, 被爆者の健診受診状況を知る上での情報の収集及び健診受診者と未受診者の動機を知るためのアンケート調査を実施した. アンケート調査の解析の結果, 健診未受診者は, 受診者に比べて, 自分は健康であると思っている者の割合が高い事などが分ったが, その差は僅かであり, 統計的分析を行っても識別は困難であった. 昭和61年度は, 被爆者診療録データベースを完備するための資料収集を行ない, 以下で述べる統計解析を行った. まず個人毎に年当り平均受診回数(受診率)を求めた. 次に受診率と死亡前年数との統計的関係を折れ線回帰法により分析し, 受診率は, 死亡が近づくと減少する傾向はあるものの, 死亡の2年前までは減少しないという結果を得た. この知見に基づき, 死亡時点を目的変数とし, 受診率と年令を共変量とする統計モデルをいくつか設定し, 適合度をみた. その結果, 時間非依存ハザードモデルに良く適合することが分った. 昭和62年度は, 時間非依存ハザードモデルを用いて性別, 年令別, 死因別に定期健診の延命効果を算出した. 全死因でみると受診率1の群の0の群に対する推定相対危険度(ハザードの比)は, 性別年令階級別にみて0.5に近い値であった. 死因別にみると, がん死における受診率係数は有意ではなかった. 脳血管疾患の死亡における受診率係数は有意であった. 定期的に受診した者は, もともと健康意識が強いのだから, 相対危険度の減少は, 一部みかけのものであろうという疑いがもたれる. この自己選択(Self selection)による偏りを修正するためには, Randomized Cohort分析が望ましいが, それは人道上不可能である. 延命効果が比例ハザードモデルに従うという統計的規則性を用いれば観察データを用いて偏りを修正することも原理的には可能と考える. このための研究計画を進めている.
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