研究概要 |
筋ジストロフィー症の臨床・病態と成因に関する研究班(班長:杉田秀夫部長)の協力を得て、本年度は14例のDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)女性患者について高精度分染法による染色体分析を行った。そのうち、家族内発症のない孤発例と家族歴の不明なもの10例中の2例にX染色体と、一方は15番染色体(X/15),他方は3番染色体(X/3)の相互転座が発見された。いずれもX染色体の切断点はp21であった。R分染法によりX染色体の不活性化パターンを調べたところ、転座に関与していない正常X染色体が不活性化している細胞は、X/15では96.4%,X/3では94.5%で、いずれも正常X染色体がほとんど不活性化する傾向を示し、従来の結果とよく一致した。一方、家族性の4例について調べた結果、48時間培養で45,X細胞が0〜1.3%観察された。そのうちの1例について、EBウイルス感染により樹立したBリンパ芽球細胞および患者の皮膚由来の培養線維芽細胞を調べたところ、45,X細胞がそれぞれ18.7%と3.9%ずつ存在しており、この患者は45,X/46,XXのモザイクであることが判明した。この患者の症状は比較的軽度で、しかもターナー症候群の徴候をまったく示していないことから、DMD遺伝子をヘテロにもつ女性において、体細胞レベルでのX染色体の不分離により生じた45,X細胞がモザイク状態を形成し、その結果、軽度の発症に至ったのではないかと推測された。女性発症の一成因として検討すべき課題であらう。 そのほか、Xp21部位に欠失をもった complex glycerol kinase 欠損症(GKD)の男子のリンパ芽球細胞株を樹立し、エール大学人類遺伝学教室の協力を得てDNAレベルでの解析を行った結果、DMD遺伝子座位のあると考えられているDXS164領域をふくむXJI.1からJ-Birまでの全領域が欠失していることが判明した。
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