研究概要 |
腎臓移植における免疫抑制薬物療法を有効かつ安全に実施することは, 急性拒絶反応と薬物副作用を防止するための重要な課題である. 移植免疫抑制の最も一般的な薬剤はプレド=ゾロン(PSL)である. 我々は患者個人のPSL免疫抑制効果を急性拒否反応や重度肺感染症を来す以前に, PSLの視床下部-下垂体-副腎皮質(HPA)系の抑制効果に基づいて判定し得るのではないか, との仮説の基に本研究を開始した. 研究対象は東医大八王子医療センターに入院した移植患者である. 昭和60年度には, 移植術後の血中内因性コルチゾール(F)値をHPLC法にて分析する技術を開発した. この方法を用いてF値の変動を追跡し, 急性拒否反応と重度肺感染症との関連性について検討した. その結果, 拒絶群と非拒絶群との間にF値の相違が認められた. すなわち, 免疫抑制過少のため拒絶を来したと思われる症例のF値は高かった. また, 免疫抑制過剰のため肺感染を発症したと思われる症例のF値は顕著に低かった. 一方, 病態が安定していて改善の認められた症例のF値は1〜5ng/mlであった. 61年度には更に詳しく追跡を試みた. この年シクロスポリンが導入されたため従来の治療法との差についても検討した. その結果, いかなる治療法でも, F値と免疫抑制との間に良好な相関が認められ, F値に基づく急性拒否反応予測が可能となった. 62年度は, これらの事実に薬理学的根拠を与えるため, 患者リンパ球のPSL感受性をID_<50>値として測定し, F値との相関を調べた. その結果, PSLのリンパ球抑制とHPA系抑制との間に明確な相関が認められ, 移植免疫抑制とHPA系抑制は薬理学的に同等であることが示された. そこで, より簡単に患者薬物感受性を知るために, デキサメサゾン抑制試験の導入のため基礎的研究を行った. 健常者に関する実験で, DSTとリンパ球PSL感受性との間に正の相関の成立することが示された. 臨床適用は今後の課題である.
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