研究概要 |
マウスの種々の突然変異個体は,いわゆる疾患モデルとして開発育成されてきたが,より基本的な生物機能のモデルという意義も決して小さくない. しかし,従来の実験用マウスだけを対象にしている限り,十分な変異個を得ることは難しい. 本研究では,従来の実験用マウスとは進化的に約100万年近い分岐時間を有する日本産野生マウスMus masculus molossinasに着目し, その野生集団の含む豊富な遺伝子変異の中から研究目的に適合したものを撰別して実験用マウス系統の中に導入して新しい実験用マウス系統を育成することを試みた. 本年の主な研究成果は次のとおりである. (1)野生集団から導入したHー2遺伝子をもつB10.MOLコンジェニック系統10系について,Hー2内遺伝的組換え促進遺伝子の有無を検定し,3系にその存在を認めた. (2)これらの内,B10.MOLーSGR系から,更に多数のHー2内遺伝子組換系統を開発育成した. (3)Hー2内組換促進遺伝子の位置をHー2遺伝子複合領域をカバーするコスミッド・クローンを用いて分析し,スイスからの報告とは異る位置にあることを確認した. また,この組換ホット・スポットの大きさは制限酵素パターンから1Kb以下と推定された. (4)Hー2内高頻度組換元が雄にはなく雌の生殖細胞でのみおこることを示した. (5)東南アジア産castaneus亜種に特有なリンパ球抗原遺伝子Ly2.3を見出し,これを実験用マウスに導入して新しいコンジェニック系を育成した. (6)中国嘉峪関産の亜種に新しいヘモグロビンβ鎖の変異遺伝子が高頻度に存在する. 現在系統化を進めている. (7)日本及びアジア産野生亜種を広く探索した結果,この地域に高頻度に出現するハプロタイプがあることを血清学およびDNAのレベルで見出した. (8)日本産野生亜種のYー染色体末端部の亜種特異性の発現が,遺伝的背景によって支配される.
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