研究概要 |
生物として系統発生学的に脊椎動物に最も近い原索動物を選び、その精子の卵膜ライシン、卵のトリプシン様酵素およびプロリルエンドペプチダーゼを対象とした解析を行って、これらがいずれも受精現象に重要な係わりを持つ酵素であることを示す以下の通りの新知見を得た。 1.卵膜ライシン (1)精子より得られたアクロシン,スペルモシン,キモトリプシン様酵素に対してそれぞれ特異的な阻害剤(ロイペプチン誘導体,キモスタチン)を、マボヤの受精開始後の種々の時間に加え、これら3酵素のライシンとしての機能発現時期を検討したところ、後2者が受精の初期に、アクロシンは後期に機能することが明らかとなった。(2)3種類のキモスタチン誘導体を使ってマボヤ,ユウレイボヤ,ナツメボヤの精子から得られた粗抽出液が示すキモトリプシン様酵素活性とこれらのホヤでの受精成立とに対する阻害効果を比べた所、個々のホヤの中ではこれらの誘導体間の酵素活性に対する阻害の強さの序列と受精に対する阻害の強さの序列とはよく一致した。他方、3種のホヤ間ではその順序は異なることが判った。 2.マボヤ卵のトリプシン様酵素 (1)本酵素の完全精製に成功し、その性質を調べたところ、受精生成物中のトリプシン様酵素と類似の性質を示すことが明らかとなった。(2)本酵素に対する各種ロイペプチン誘導体の阻害効果の強さの序列は、卵膜上昇に対する阻害効果の強さの序列と一致した。 3.マボヤ・プロリルエンドペプチダーゼ (1)精子と卵の両方からほぼ同様な方法で本酵素を精製し、両者の性質がよく似ている事を明らかにした。(2)新たに合成した数種のプロリナール含有化合物は、いずれも精子由来,卵由来の両酵素をほぼ同程度に強く阻害した。この効果の化合物間で見られる強さの序列は、卵膜上昇と卵割とを指標とした受精・発生過程に対する阻害効果の強さの序列と一致した。
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