研究概要 |
ラットの上皮性培養肝細胞BRLとBRLをラウス肉腫ウイルスで形質転換して得た造腫瘍性の細胞RSV-BRLを用いたこれまでの研究によって、種々の動物の血液中にはこれらの細胞に対する増殖阻害因子が存在することを見出している。本研究では、特に、ラットの血清とヒトの血小板に存在するBRLに特異的な増殖阻害因子、および、兎血清中に存在するRSV-BRLに特異的な増殖阻害因子について検討を行った。 1.ラット血清中の増殖阻害因子は、分子量約22万、等電点5.2の複合体として存在したが、4M尿素の存在下では分子量37,000、等電点5.3の蛋白質に解離した。この活性成分を、酸性エタノール抽出、分子節クロマトグラフィなどの操作によって約7000倍に精製した。精製した増殖阻害因子は、BRL,MDCK,BSC-1などの正常上皮性細胞の増殖を強く阻害したが、RSV-BRLを含む種々の癌細胞や線維芽細胞に対しては殆んど増殖阻害活性を示さなかった。 2.有効期限切れの血液から調製した血小板の酸性エタノール抽出液には、BRLに対する強い増殖阻害活性が見られた。この血小板抽出液から、分子節クロマトグラフィ、陽イオン交換HPLCおよび逆相系HPLCによって、分子量約27,000、等電点約9の増殖阻害因子を完全に精製した。この増殖阻害因子は、分子量と等電点に関してラット血清中の増殖阻害因子と異なったが、両者はほぼ同様な細胞特異性を示した。また、この因子の増殖阻害活性は上皮増殖因子(EGF)の存在によって増強された。 3.正常兎の血清から、陰イオン交換クロマトグラフィ,分子節クロマトグラフィ,逆相系HPLCなどの操作で増殖阻害因子(分子量10,000以下、等電点5.0および6.5)を精製した。この増殖阻害因子は上記の2種の増殖阻害因子と異なり、RSV-BRLをはじめ、種々の癌細胞の増殖を強く阻害した。これらの増殖阻害因子は生体内での細胞増殖の制御に関与するものと思われる。
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