研究概要 |
ATP合成酵素(【F_0】【F_1】)は生体に於るほとんどのATPを合成している酵素であり、活性中心部分(【F_1】)と【H^+】輸送路(【F_0】)からなっている。本酵素は【F_0】(a,b,cサブユニット)を輸送される【H^+】を駆動力とし、【F_1】(α,β,γ,δ,εサブユニット)がATPを合成している。研究代表者らは過去の遺伝学的実績を基礎に、本酵素の反応機構をサブユニットおよびアミノ酸残基のレベルから解析した。研究成果をまとめると以下のようになる。(1)ATP合成酵素の【F_1】部分にある活性中心間の協同性を明らかにし、阻害剤および基質類似物質の作用機構を解析した。さらに150株以上の変異株を分離し、欠損を反応機構の上から明らかにした。重要な点は、【F_1】の持つuni-site活性とmulti-site活性が阻害剤、変異等によって分離されることである。また変異株【F_1】のβサブユニットと正常βサブユニットを組み合わせ、multi-site活性を持つためにはβサブユニットが3つとも正常でなければならないことを明らかにした。(2)βサブユニットの変異によってATP合成酵素全体のアセンブリーが異常になることが明らかになった。このような変異を系統的に解析し、置換アミノ酸残基を決定した。このような研究から【F_0】【F_1】の新しいモデルを提出し、またサブユニット相互作用に重要なアミノ酸残基およびドメインを明らかにした。同様の成果がγサブユニットについても得られた。(3)【F_0】部分の変異株を系統的に分離し、【F_1】のアセンブリーと【H^+】輸送路の形成を解析した。その結果、ab両サブユニットが【F_1】結合部位の形成に必要であること、aサブユニットのアミノ末端から110残基があれば【F_1】は結合しうること、aサブユニットのカルボキシル末端側の20残基以内に、【H^+】輸送に関与する残基があること、bサブユニットのカルボキシ末端の33残基以内に【F_0】全体のアセンブリーに重要な残基があること等が明らかになった。以上複雑な【F_0】【F_1】の反応機構をアミノ酸残基のレベルから解析した。
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