研究概要 |
葉緑体は植物細胞に普遍的な光合成用のオルガネラであり、植物界に広く分布している。葉緑体にはそれぞれ独自のDNAゲノムがあり、その複製や遺伝子発現は全て葉緑体内で行われるが、一方また多くの構成蛋白質を宿主細胞核の遺伝子にも依存しており、それらは細胞質で合成されて葉緑体に導入される。本研究では、葉緑体遺伝情報システムを理解するための基礎として葉緑体DNAの全塩基配列を決定し、遺伝子構成の解明を目的とした。材料としてはゼニゴケ葉緑体を1つのモデル・システムとして選定し、121,024bpの葉緑体環状DNAの全塩基配列が決定される。そしてDNAデータバンクを利用したコンピュータ解析などから、約130個の遺伝子が検出され、遺伝子地図を完成した。このうちの約半数は、rRNA,tRNA,RNAポリメラーゼ,リボソーム蛋白質など、葉緑体内での遺伝子発現に関する基礎的遺伝子であった。これらの遺伝子は、対応する大腸菌遺伝子との相同性から同定されたものであり、遺伝子配列にも類似の点が多いことなどからも、葉緑体の遺伝系が原核生物由来のプロカリオート型であることが示唆された。使用されているコドン表は普遍的なものであり、葉緑体tRNA遺伝子による31種類のtRNAがその翻訳にあたっている。リボソーム蛋白質の遺伝子としては20個が検出され、残り約30種の蛋白質は核遺伝子に依存している。同様にして、光化学系や電子伝達系などの蛋白質複合体は、いずれも葉緑体遺伝子のみでは完成せず、葉緑体ゲノムの自律性の限界と核依存性の実体が明確となった。なお、各複合体のどのサブユットを葉緑体遺伝子が受け持つかは、高等植物の葉緑体についても同様であり、全ての植物の葉緑体が同一起源から進化してきたことを示している。そしてそのことはまた、本研究で解明されたゼニゴケ葉緑体ゲノムの構成と構造が、葉緑体一般に対するモデル系として有効なものであることを示している。
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