研究概要 |
筋収縮時に細いフィラメントに起る構造変化をシンクロトロン放射光を用いて高速X線回折法により調べ、収縮過程及び張力発生中に細いフィラメント中の制御蛋白質トロポミオシンとアクチンモノマーの構造の動的変化を解析した。カエル骨格筋について次のことが明らかとなった。1.細いフィラメントのアクチンのらせんピッチに相当する5.1,5.9nm反射とトロポミオシンが寄与している19nm反射は張力発生に先行して強度増大を示し、且張力の減少より先行して減少した。このことは収縮の初期過程で起る変化と一定張力発生中での細いフィラメントの構造が異なる可能性を示唆する。2.新しい型の積分型2次元検出器イメージングプレートを用いて同一筋肉について弛緩,等尺収縮,硬直の三状態から2次元回折像を短時間に且高空間分解能で記録した。その結果、収縮時にほとんどすべての細いフィラメント由来の反射が強度増大を示した。収縮中の細いフィラメント反射の強度分布を測定したところ、分布は弛緩時のものに近く、硬直時のものとは明らかに異っていた。収縮中の強度データからパターソン関数を計算したところ、収縮中ミオシン突起の結合によるベクトルピークは観測されなかった。このことは相互作用しているミオシン突起とアクチンは可干渉な構造を持たないことを示唆する。このことから我々は収縮中のアクチン反射の強度増大はミオシン突起との相互作用により細いフィラメントに誘起された構造変化によると仮定してモデル計算により解析した。アクチンモノマーがドメイン構造を持つとしてF-アクチンを構築し、それにトロポミオシンを加えた細いフィラメントを考えた。収縮中の強度増大はアクチンモノマーのドメイン構造の変化とトロポミオシンの位置変化で大体説明できた。この結果から収縮中アクチンモノマーの変化が強く示唆され、それとトロポミオシンの位置の変化の因果関係が検討された。
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