研究概要 |
1.乳癌組織抽出液のcrudeなTPI比活性(U/mg属白)は、乳癌の周辺の正常乳腺抽出液中のそれより有意に高かった。また正常乳腺部のTPI比活性は、病期の進行につれ、またestrogen receptor陰性の群において低値の傾向を認めた。 2.乳癌・正常乳腺よりのTPIの分離・精製 3MKSCNにより抽出したcrudeなTPIをpapain-affinity chromatographyとゲルろ過により精製した。両組織とも低分子と高分子TPIが存在し、それぞれの分子量は14,000と90,000であった。低分子TPIは正常乳腺よりも乳癌において約3倍豊富に認められた。 3.乳癌細胞株(YMB-1)の培地内へのTPIの放出の証明とその精製 乳癌細胞株の無血清培地内へのTPIの放出を経時的に測定した。TPIの放出は、定常期〜減衰期にかけて高値であった。一方培地内へカテプシンBの放出は増殖期に高値であった。TPIをpapain-affinity chromatographyとゲルろ過により精製した。その分子量は14,000のみであった。 4.乳癌,正常乳腺,乳癌細胞株よりの精製TPIは以下の生化学的、免疫学的に共通の特性を有していた。(1)分子量はSDS-PAGAにて約14,000であった。(2)温度安定試験;4℃、1ケ月で100%活性が残存した。60℃まで安定で、70℃より不活化した。(3)pH安定試験;pH4-12の範囲で比較的安定であった。(4)クロモザイムを基質と用いた時、パパインを競合的に阻害し、その阻害定数は6.1×【10^(-8)】Mであった。(5)チオール系のパパイン,フィシン,カテプシンBは強く阻害するも、いかなるセリン系の酵素への阻害なし。(5)高分子TPIは坑ヒト尿中TPI坑体と免疫学的に反応したが、低分子TPIは坑ヒト尿中TPIとは反応しなかった。(オクタローン法と免疫電気泳動法による)。以上高分子TPIは、血清由来のものと考えられる。一方低分子TPIは、癌細胞に特有な性格を有する物質と考える。
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