研究概要 |
犬糸状虫性血色素尿症(以下本症)は, venae cavae syndromeあるいは caval syndromeと同一の病態である. 本研究は本症に普通的に見られる血管内容血の機序と発生部位を解明する目的で実施された. 色素を封入した赤血球による実験では, 検出感度が低いため, 溶血部位を同定することができなかった. ^<51>Cr標識易溶血性赤血球をvena cavaから注入し, 右心房三尖弁付近と右心室から採血して溶血率を検討した実験では, 4例中3例で三尖弁口部付近での溶血を示唆する成績が得られた. しかし, わずか数心拍の間に破壊される赤血球から溶出する^<51>Crは非常に微量であり, その検出限界と実験精度との関連で, 成績は極めて微妙に変動する. より正確な溶血部位の同定のためには, より多くの症例と対照犬を用いてさらに検討を加える必要があると考えられた. 本症では肝機能障害に伴って赤血球膜のfree cholesferolが増加し, 循環赤血球は機械的脆弱性亢進状態にある. しかし, この易溶血性は慢性重症の犬糸状虫症にも認められ, 本症の直接的溶血原因ではない. 赤血球ATP濃度, 血漿のリン脂質及び胆汁酸濃度, 血清浸透圧及び免疫学的機序も本症の直接的溶血原因ではなかった. 本症の末梢血には破砕赤血球が出現し, 物理的機序による溶血を示唆している. しかし, 播種性血管内凝固(DIC)の関与は否定された. また, 三尖弁口部の犬糸状虫を摘出すると収縮期心内雑音が消失して血漿ヘモグロビン濃度は急速に低下する. 逆に三尖弁口部に犬糸状虫を移動させると, 溶血は亢進する. 以上の所見から, 本症の血管内溶血は, 犬糸状虫が存在する三尖弁口部付近で, 易溶血性赤血球が物理的に破壊される可能性が極めて強い. 本症は発症率が比較的低く, 実験材料の入手困難が研究を著しく阻害してきた. 実験モデルの開発は一連の研究で得られた一方の成果であり, 研究の進展が期待される.
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