研究概要 |
佛像荘厳の意義は、佛の神力の造型化ということに盡きる。光明・蓮華・氣の三要素に加えて、宝珠や玉が加わり、ペルシァ・インド・中国などの習俗や思想を強く反映させながら、成立し展開したものである。いずれもそれぞれの国土や民族の創世観や世界観と深くかかわりがあり、生命の誕生と世界の創造エネルギーが、佛の神力の具体的な表現として流用された結果である。 このように、諸民族の習俗・思想が習合しつつ展開していった荘厳美術は、当然その表現の上でも習合現象をみせる。とくに、パルメット系の唐草と雲氣との習合は、極東美術のみにみられる幻想的な文様の出現として、注目されてよいであろう。その後さらに、宝相華文様,牡丹花,葡萄唐草文などへの置き換えも加わって、変化に富んだ様相に発展することになった。 蓮華化生の思想とその表現は、古代インド・バールハットの欄楯装飾の中にはっきりと示されている。蓮華の花は動きつつあるものとして表わされ、さらに花のまわりに、ライオン・象などの聖獣や毒蛇,唐草などをめぐらせることにより、蓮華の創成の力を示そうとした。この形はわが国の美術の中にも伝えられている。中国起源の氣の思想と表現は、この蓮華の表現のなかに取り入れられ、両者の融合が実現するのである。 さらに、中国に始まった神仙思想もまた荘厳美術のなかにはっきりと影を落している。佛像は時に神仙に置き換えられたのである。京都,月輪寺の一木仏像の衣には、鶴と折枝の文様が表されている。一木彫の彩色に多い折枝文様は、おそらく仙界からもたらされた薬木,瑞草の数を指しているものと考えてよいであろう。
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