研究概要 |
60年度,61年度にわたり、次の2つの研究成果をあげた。ひとつは、文献研究である。検索経験の種類や深さによって、検索された記憶情報がどのような変容を遂げるのかを中心に、過去の関連する論文を概観し、さらに今後の展望を行ない、全体が、およそ2万字に及ぶ論文に仕上げた。その論文では、まず、用語の定義と論文の枠組を示したのちに、以下、検索経験とメタ記憶,検索経験の効果を査定するための3つの実験パラダイム,検索経験と記憶データベースの形成,まとめと今後の問題の順に論を進めた。素材としてもっぱら用いたのは、テスト期待の知見と、質問効果の実験結果である。これらを、あらためて記憶データベースの形成という観点からとられ直すことが、この論文の趣旨となっている。もうひとつは、実験研究である。この実験では、深い処理と浅い処理を要求する検索課題を経験することが、記憶情報の定着,関連性,検索対応性にどのような影響をもつかを検討した。実験の概要は次の通りである。8項目から成るリストの提示後に、提示項目についての異なった質問をすることによって、検索処理の深さを制御し、4リスト24項目(反復項目あり)全ての「提示-質問」が終了したら、24項目の最終自由再生をさせた。予想とは異なり、もっとも浅い処理を想定した、項目の有無をたずねただけの再認群の再生成績が、もっとも深い処理を想定した下位カテゴリー判断群とほぼ同じくらいの成績であった。しかし、項目間の機能的関係性をつけるという点では、下位カテゴリー判断群の方が優れていた。以上2つの研究を、今後はテストの質問内容とそれに対する検索方略の問題へとつなげていくことが、ひつとの方向として考えられることがわかってきた。
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