研究概要 |
1.反応時間課題により、ニホンザル,チンパンジー,ヒトで種々の母音の知覚を検討した。後2者については聴感度を測定し、母音知覚との関わりを検討をした。その結果、ヒト以外のサルでは/i/と/u/、/e/と/o/の弁別がヒトに比べてよくないことが判明した。これには、ヒト以外のサルでは2.4KHzで聴感度が低下する(ヒトでは最も感度がよい周波数帯である)ことが関与すると考えられた。この結果から、ヒトは母音の第2ホルマントに鋭敏であるが、サル類ではその聴取が劣っていると考えられた。 2.チンパンジーとヒトで子音(特に破裂子音)と母音(/a/)の音節の弁別を行なった。破裂子音は有声・無声,調音場所(3つ)の相違から6つに分類される。自然、合成の破裂子音の知覚を検討したところ、チンパンジー、ヒトともに有声・無声の弁別(例えば/pa/と/da/)は容易であったが、調音場所の相違(例えば/da/と/ba/)の弁別は、特にチンパンジーでは困難であった。この結果は、調音場所の相違が第2ホルマントの変移部の周波数変化によること、チンパンジーでは第2ホルマントの聴取がよくないことと整合する、と考えられた。 3.カテゴルカルであると云われている破裂子音の知覚をヒト,チンパンジーで検討した。有声・無声の差はVOT(voice onset time)の値に依存し、調音場所の相違は、上記のように、第2ホルマントの変移部の周波数変化に依存する。そこでVOTと第2ホルマント変移部の周波数を段階的に変化させる合成破裂子音を作成し、カテゴリカルな知覚を検討した。その結果、チンパンジーもヒトとほぼ同じ境界効果を示し、破裂子音をカテゴリカルに知覚することが明らかになった。 4.半球優位性については検討中である。これらの結果から、ヒトの音声言語の進化について考察を進めている。
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