研究概要 |
1.本論文の目的は、島根半島・美保神社の祭祀的世界の深層を再構成することである。そのためにまず、神社祭祀が〈民俗集落〉としての美保関地域社会の社会組織と深く結びついていることに注目した。このような社会的・祭祀的秩序を基盤にして、美保神社と美保関民俗集落とを-全体とするような宗教的コスモロジーが成り立っていると思われる。そのような全体的理解のために、本研究は海のかなたの異界性とさまざまな儀礼における女性原理とが、神社祭祀世界の基本的な原理として抽出できることを示した。 2.具体的には、美保神社における4月7日の蒼柴垣神事を通して、祭祀的世界を社会組織との結びつきに注目した。その結果、男性神役としての頭屋と少女神役・オンド(小忌人)とが基本的な儀礼的役割をになっていることが明らかになった。従来の研究および地元住民の思考では、男性頭屋の役割が基本と考えているようであるが、この詳細な儀礼過程をみると、少女神役・オンドの方が祭祀的世界を基本的にになっていることが明らかになった。 3.また、美保神社の祭祀的世界が海のかなたの異界性と深くかかわっていることを、5月5日の神迎え神事,8月7日の虫払い神事、および12月3日の諸手船神事を通じて考察した。その結果、海のかなたの異界神である女霊が暗黒世界とからまって豊譲と再生の聖なる力を与えていることがわかったと同時に比較的対象とした巌島神社の祭祀的世界についても、同様の原理をみい出すことができた。
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