研究概要 |
この研究は、東海地方の方言事象について、言語地理学的な研究と文献学的研究との提携によって、その歴史を考察してみようとした。音韻・語彙・文法・敬語の各分野を合わせて200項目程度で方言の臨地調査をし、一方でこれを近世後期以降の濃尾・三河,さらには伊勢の方言文献との対照ないし提携させながら考察した。 いくつかの項目について整理・考察した結果、ほぼ次のような様相が認められた。まず、近畿からの言語伝播は濃尾地方の中央に受容される。しかし方言的な変容がみられて、ここがまた新たな言語の放射地となっている。そして、西三河が比較的早くこれを受容し、東三河や知多への伝播はかなり遅く、ここまでくると古態的な性格を強くする。西美濃の北部も古い事象の見られる所であるが、三河と違いその位置を反映して近畿色が濃厚である。東美濃から下伊那・遠州には、古態から東部方言事象という異質的な面も見え始める。敬語事象や文法事項にこれらはよく認められる。 文献から得られる知見としては、近世後期の濃尾中央にある事象は中世末期京都語で認められる事象をいく分方言的に変容させた形が多く、これが次第に東へと推移して、今日では上に古態とした地域に残存している。語彙事象はこれとやや異なり、対象とした限りでは(愛知県周辺で境界や地域差の多いものを採用した)今日の模相が近世後期の状況と大きくは違わず、この頃には今日的な状況に近い形が形成されていたものも多いようである。その意味では、現今の共通語化の方が変化をもたらす要因として強く働いている可能性がある。 今後は、調査地点を拡大して近畿にまで伸ばして行きたい。
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