研究概要 |
寺院の蔵書調査と, 今まで収集した資料の他本との比較検討を中心に作業をすすめ, その過程で新たに知りえた資料も併せて収集した. 寺院の蔵書調査の結果は, 興味深い二箇寺について, 成果報告書に入れた. これは簡易製本した. 目録作製のこの作業は, 他の分野からの利用も期待でき, 有用なことと思われる. 個人の力では限界があるが, その多くが紙魚の量となっている現状からも, 今後も継続してゆく必要を痛感している. 書誌的な検討も, 遠隔地の図書館等にまで足を運ぶことができた. 具体例は成果報告書に譲るが, これらの成果は刊行を予定している「近世勧化本解題」にとりいれてゆきたい. 勧化本は庶民の信仰の実態を示し, 近世の仏教的な文化の背景を明らかにするものである. その点からも多岐に渡る研究の必要がある. 文学・芸能への影響は光学の指摘のあるところであり, 私も講談・実録体小説との関係を報告した. また仮名草子との関係はもっと積極的に考えられるように思う. 勧化本は唱導説教の場と密接に結びついているものであり, その実態の把握も重要な課題である. そのために, 説教僧への指南書である「唱導論書に注目し報告した. さらに説教僧の伝記的研究をその著述を手がかりにすすめているが, 近時幕末の一説教僧の日記を披見することができ, 学問・修練等実態の解明の一助になるのではと, 期待している. 基本的課題としては, 近世勧化本の全体像をあきらかにすることであるが, 同時に個別的な研究も積み重ね, 併行することによって, 近世勧化本それ自身の位置づけがなされるものと思う. 今後の大きな課題として努力してゆきたい.
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