研究概要 |
1.蕭軍論を軸に、東北作家の形成過程における蕭軍の役割り、光復後の東北文化状況と蕭軍の位置について一定の解明を行なった。 2.「満州国」における中国文学の主流をなす「芸文志派」について、その活動軌跡と、彼らの作品内容をふまえた一定の評価を提示した。 3.上記主流派から離れたところで、したたかな抵抗を続けた袁犀、王秋蛍二人について、その作品論をてこに、内面にふみこみ、実像を浮き彫りにした。 4.『新潮世界文学小辞典』(改訂版)に、「満州国」中国人作家の項目を新たにとりあげていただいたことの意味は大きい。従来の中国文学の枠組みを大きく広げること、世界の抗戦文学の一環に「満州文学」を加えることにつながると考えるからである。 5.この間の研究を通して、「満州」体験者の中から、これらの中国人作家と交流のあった日本人、また日本文学として「満州」を見直そうという研究者更には、中国人の東北文学研究者や古丁の遺族などともつながりを持ちえたことにより、今後の研究に展望を与えられたことの意味は大きい。 6.今後は、「日訳作品目録」の補充、「満州文学年表」の作製といった基礎作業とともに、(1)、古丁を中心とした「芸文志派」作家に対する評価の掘り下げ、(2)、山丁,呉瑛,関沫南,田琳といった、日本人とは一線を画す中で作品を生みだしてきた作家たちの掘り起こし、(3)、当時の日本人からみた「日満文化提携」,「民族協和」の実態分析,という諸課題にとりくむつもりである。その際、今後の新資料発掘とともに、この間生まれた中国人、日本人との研究交流が大きな支えになるだろうと考える。
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