本研究は古典チベット語の動詞構造の解明を目指し、以下の研究成果を挙げることが出来た。 (1)18世紀のチベット人文法家A Kya Yongs ´dzin dByangs can dGa´ ba´iblo grosの小品rTags kyi ´jug pa'i dka' gnas bdag gzhan dang byabyed las gsum gyi khyad par zhib tu phye ba nyung gsal 'phrul gyilde mig(rTags kyi 'jug paの難所、自、他と、所作・能作・対象の三者の区別の正確な弁別を簡潔に解明する魔法の鍵)を和訳し、チベット語土着文法の主要術語の正確な理解に務めた。特に「自」と「他」の理解に関しては、従来の能動・受動・自動詞・他動詞などという誤解を解き得たと確信する。自動詞・他動詞に対応するチベット語の術語を明確に指摘しえた。 (2)Thon mi SambhotaのrTags kyi 'jug paのうち、動詞の接頭辞の職能を扱う第12偈から第15偈までをSifuの大注とともに翻訳、研究した。 (3)Skal gsang 'gyur med氏を始めとする現代チベット人文法家の動詞分析と、山口瑞鳳氏による彼らに対する批判を検討した。 (4)チベット語動詞のパラダイムをT【a!¨】schlceの辞書等の記述に基づき、μ-cosmosという汎用データベースを用いて、パーソナル・コンピューターに入力し、自動詞・他動詞の対立関係に基づいて体系的に整理する事を試みた。新たに動詞のパラダイムを整理分類したいと考えていたが、未だ最終的な結論には達しておらず、チベット語動詞の語〓の確定とともに、今後の課題としたい。 (5)チベット語土着文法の理解の当否を探る為には、出来るだけ多くの文例を集めることが必要である。従って、単語単位のサーチ機能を備えた英文ワープロ・ソフト(広島大学総合科学部久保泉教授の製作になるWPIP)に、各種のチベット語テキストを入力した。個々の例を積み上げた具体的な吟味検討と、その成果の公表は今後の課題である。
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