本研究は、行政訴訟ないし行政裁判の前段階で行われる行政上の不服申し立て制度について比較法的な観点を踏まえつつ実証的に研究しようとしたものである。現在のわが国行政法学においては、行政の裁量の増大や高度の専門化にてらし、司法裁判所による統制のあり方を再検討すべきことが提唱されている。その方策の一つとして行政不服申し立て制度の強化や行政不服審判所制度の採用などが提唱されているが、現行の不服申し立て制度の実際については、とくにその運用上の問題点については十分に研究されていない。以上のような関心から、本研究では、国の行政機関、都道府県の行政機関において、不服申し立て制度がどのように運用されているか、また、実際にどのような問題点をかかえているかを、各行政機関にアンケートし、あるいはインタビューして調査し、その結果をまとめることにした。わが国の不服申し立て制度は昭和37年に制定された行政不服審査法によって、大幅に改善されたが、その趣旨が実際に生かされているかどうかは、必ずしも明らかではない。本研究の調査の結果をまとめると、次のとおりである。まず第一に、わが国では不服申し立てに関する詳細な統計は作成されていない。したがって、正確な件数を知ることは不可能であるが、国税等一部の分野を除いて不服申し立て件数はきわめて少ない。第二に、地方公共団体の行政に関しても、東京都等一部の自治体を除いて件数はきわめて少ない。第三に、不服申し立てを専門に扱う部局はきわめてまれである。したがって、不服申し立てを司法手続き的に取り扱うことも一般的には期待しえない。第四に、不服申し立てが正式の裁決によって救済されることは少なく、不服申し立ての取り下げを条件とする行政処分の変更による救済の図られる例が多い。
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