研究概要 |
従来のわが国際民訴法研究においては、国際裁判管轄・外国判決の承認・執行・国際二重起訴など、若干のトピックのみが、断片的にとり上げられるにとどまっており、それらを統轄する理論的視座としては、半世紀以上も前の田中耕太郎博士の「世界法の理論」第2巻に示された、極めて理想主義的な、言い換えれば、価値観のこれだけ分裂した現在の世界とかけ離れた普遍主義的国際私法観を平行移動させて論ずるものが辛うじてあるのみだった。そこから生ずる国際取引上の実際的諸問題との間のギャップが、国際民訴法上の議論を、多分に現実離れした非効率なものとしていた。だが本研究では、国際法,国際経済法,国際租税法などを含む広汎な領域での問題と、いわゆる国際民訴法上の諸問題とを統轄する理論的視座として、アメリカ独禁法等の域外適用とそれに対する英・豪・加等の諸国の対抗立法の登場という、1980年代のなまなましい現実から抽出された「国家管轄権の一般理論」を据え、そこから種々の問題に新しい光を投げかけるという現実的なアプローチがとられた。その際、とりわけ国際金融取引をめぐって生じている累積債務問題や、コンピュータ・ネットワークを介した国際資金移動(EFT)などの極めて新しい問題が、上記の私の分析視角の正当性を検証する実例としてかなり突っ込んで分析され、それなりの成果が得られた。諸外国でも、本研究のような統一的な理論的視座が、どこまで設定されているかは問題であり、英米法・大陸法・発展途上諸国の法の間で、実にダイナミックな形で生じて来る国際民訴法上の諸問題につき、財産法・家族法を問わぬ形で利用可能な分析枠組を、私は本研究を通して得ることができた。その成果は後掲の著書のうち、とくに「現代国際私法上」(東大出版会刊)の第【II】部に体系的に整序された形で示してある。
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