本年度も、個人破産事件の実態の調査を中心として、さらに、アメリカ破産法における消費者破産法制の歴史的・比較法的考察を続行し、さらに加えて西ドイツにおける倒産法改正作業、消費者破産法制の立法に向けての新らしい動向の調査を行ない、わが国の消費者破産法制の立法のための基礎資料を獲得することに努めた。 1.まず個人破産に関するわが国の実務の実態の把握については、新たに、破産事件を担当した裁判官からの意見の聴取をも行なうことができた。これは、事件記録のみの調査では、調査対象が限定されることと、事件記録においても必ずしも十分な記録が作られているわけではなく、事件の実際には迫り難いという制約があり、事件の一般的パターンは明らかにしえても、問題点の解明には十分でないという難点を補おうとするものである。とくに、免責については記録のみからは十分な解明をなしえないが、裁判官からの聴取により、破産宣告がなされていても破産免責の申立がない事件の実際などについての説明をえた。これらは、わが国経済界における破産制度の理解と取扱いについての傾向を示すもので、立法論的考察にとって重要である。 2.アメリカ破産法については、歴史的研究とともに、1984年改正法による消費者破産の取扱い(707条(b))を中心として考察した。とくに債務者救済への過度の転回とその修正は、わが国の立法においても参考となる。 3.従来から破産免責制度を持たず、また今回の破産法改正作業においても免責制度に否定的な西ドイツで、その後、1986年12月にいたり、消費者破産立法の提案がなされた。今後の動向を見守りたい。 以上の考察から消費者破産の立法のための基本的方向をえたが、さらに、現行破産法は多くの問題があり、さらに全面的な検討を加える必要性を感じる。
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