研究概要 |
マクロ経済変数間の因果関係について、統計的に安定な関係が見だされるかいなかを調査することは、マクロ経済学の諸理論(ケインズ経済学,マネタリズム,合理的期待学派)の妥当性を議論する際にも欠かすことの出来ない作業である。本研究の目的もこのような因果性の有無の検出のための統計的推測の方法を開発し、最近の日本のマクロ経済データを用いて、手法の妥当性を吟味することにあったが、その目的はほぼ達成された。因果性の検出は二変量時系列モデルによるか、他の変数の効果を除去した系列相関にもとづく分析が考えられる。後者については、これまでの研究の全くなされていない分野で本研究ではそれを初めて理論的にとり扱っている。従来の二変量時系列モデルにもとづく因果性の検定としては、Granger検定及びSims検定が知られている。ただこれらの検定は0制約仮説をF検定によって検定しているが、対立仮説となる母数空間の次元は固定しているもの(通常は考えられ得る最大の次元)として扱われている。しかしこれは対立仮説の次元が未知である場合、検出力の機会損失を大変大きくすることが本研究によって確認された。このためこのような時系列間の因果性の検定のため、一般化尤度比検定とそれの具体的な形としての階層的【X^2】検定及び階層的F検定を開発し確率値を求めるサブルーティンを作成した。とくに日本の名目GNPと貨幣ストックの因果性に適用した結果は、従来得られたものよりも因果関係の一方向性がより明確に検出された。本研究ではさらにこの一般化尤度比検定をモデル識別のためモデル信頼域の構成に利用した。特にマネタリストモデル(セントルイス連銀モデル)の日本マクロデータへのあてはめにこの方法を取り入れた。
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