研究概要 |
平面上や空間に散布する対象の配置パターンに関して、何等かの統計的推論を行いたいという場面は生態学,地理学,医学,材料工学,そして物理学・化学などあらゆる分野において現れる。空間パターンの統計解析,統計的モデル構成においては時系列データに対するそれとは異なった多くの新しい側面が出現する。すなわち時系列ではある時刻における事象は後の時刻における事象にのみ影響が波及し得るのに対し、空間のある場所における事象はどの方向の他の事象にも影響を与え得る。この点が空間データを単なるベクトル時系列としても、あるいは単なる多変量データとしても扱えない主な要因であり、独自の手法を必要とする理由である。 空間配置パターンを統計的に処理する既存の手法は主として生態学において開発されてきた。しかし、尤度法に基づく統計手法はその有効性が一般に認められているにも拘らず、空間データに対してはこれまで十分な発展が見られなかった。その理由は上記の問題点と密接な関連がある。 われわれは空間データに対する尤度法を、一定の困難を克服することによって数年前に提出した。そして、このたびの研究計画に於てそれをさらに発展させることを目指した。その結果、環境条件が不均一である場合、点間の相互作用とともに環境の空間的変動をも同時に推定することが可能になった。また、反撥型相互作用が予想される場合に、これまで1パラメータのソフト・コア・モデルを複数個あてはめることによって処理していた部分を、モデルを2パラメータのモデル族に拡張して推定できるように発展させた。その他にも空間配置パターンに関するいくつかの研究を行って発表した。残された問題はまだ山積しており、各分野への応用も含めて今後の研究課題としたい。
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