研究概要 |
一, 研究課題 19世紀末の「大不況」とは, 経済学において通常とりあげる景気変動とは質を異にしている. 1.波動論的にみて, 長期の停滞期を伴っていたこと. 2.産業構造論的にみて, (a)衰退産業と新興産業の交代を伴っていたこと, (b)農業および土地所有に危機的様相が現れたこと, (c)英から米・独へと産業的リーダーシップの世界的再編が進み, それに伴い, イギリスの寄生的金融帝国への変質がみられたこと. 3.社会組織論的にみて, 古典的市民社会から組織化された現代社会への移行が始まったこと. 本研究は, コンドラチェフの長期波動論を理論的手掛りとしながら, 「大不況」の中心舞台の一つとなった19世紀末のイギリス社会を対象として, この構造変化のトータルな像を把握しようと試みる. 二, 研究経過 研究の具体的項目としては, (1)構造変化の反映であると共に, その推進要因の一つともなった, 社会意識やイデオロギーの研究. (2)経済理論や経済政策思想・社会政策思想に現われた転換の研究. (3)コンドラチェフ波動の成立要因に関わる, 経済理論ないし社会理論の研究. (4)経済・社会構造(産業構造や社会組織を含む)の編成替えに関する研究, の四点が念頭におかれている. (1)については, すでに「プロテスタンティズムの倫理と帝国主義の精神」が発表されている. 今回の研究では, 主力は(2)(3)に集中された. 副産物として「戦時動員体制の比較史的考察」(1988年), 『社会科学の現在』(1986年)が得られた. (4)は今後の課題として残された. 今後の研究の基礎作業として, 過去15年間にわたって蒐集された内・外の資料に関するビブリオグラフィーが作成された.
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