研究概要 |
当研究室で独自に開発した相互転座へテロのチャイニーズハムスターを用いて、その戻し交配の方法(相互転座ヘテロシステム)により染色体異常と胚の発生能との関係を明らかにすることが本研究の目的である。 相互転座ヘテロ接合の個体は、その転座に関わる染色体の過不足(部分的なものも含むダイソミーまたはナリソミー)を伴う特定の異常を有する配偶子を形成する。したがって、これらと正常配偶子との受精により特定染色体の異常(トリソミーまたはモノソミー)の胚が得られる。今回用いた11種類の相互転座,T(2;3)1Idr,T(2;3)3Idr,T(1;4)4Idr,T(2;8)5Idr,T(1;3)7Idr,T(1;3)8Idr,T(1;2)9Idr,T(1;4)10Idr,T(1;5)17Idr,T(4;8)18IdrおよびT(1;6)19Idr,をそれぞれ有するチャイニーズハムスターの系統の交配により、Nos.7と9を除くすべての常染色体の部分的または染色体全部のトリソミーとモノソミーの胚が得られる。これらについて、1細胞期から胚盤胞期までの各分割段階の詳細な調査によって発生能について検討した。 その結果、No.2染色体の部分モノソミー胚は2細胞期で分割,発生を停止し、淘汰されることが判明したのに続いて、No.1染色体の部分モノソミー胚は8細胞期前後で、またNo.4染色体のモノソミー胚は8細胞期から桑実胚期の間で淘汰されることが分かった。これに対してトリソミー胚の多くは、少くとも着床まで正常と変らない分割,発生をすることが確かめられた。モノソミー胚については異なる相互転座の系統を用いてモノソミー部分の異なる胚の発生能を比較してみた結果、発生停止に関与する染色体部分はかなり限定され、その欠失によって胚の初期発生に決定的な障害を及ぼす遺伝子(群)がその染色体部分に存在することが示唆された。マウスモノソミー胚の最近の知見を合わせると、初期発生に関与する遺伝子(群)は哺乳動物でかなり共通のものであることが考えられる。
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