エンドウクロマチンの構造と機能に対するカルシウム(【Ca^(2+)】)の作用について調べた。先ずin vitroにおける【Ca^(2+)】の作用としてクロマチンの吸収スペクトル、熱融解曲線の測定からクロマチンは【Ca^(2+)】によって凝集化をともなった安定した構造に移行していると思われた。またクロマチンを超音波処理すると、分子サイズの断片化とともに凝集化の少ないクロマチンが得られた。超音波処理をしたものと、しないクロマチンに【Ca^(2+)】を加え50%凝集沈殿に要する【Ca^(2+)】量は超音波処理したもので2倍多く必要とした。またクロマチンを食塩によって解離させたものを、【Ca^(2+)】あるいはEGTA存在下で再会合させると【Ca^(2+)】存在下で得られたクロマチンのTm値はEGTA存在下で再会合させたものより高かった。これらの結果は【Ca^(2+)】がクロマチンの構造に関与していることを示すので、【Ca^(2+)】とクロマチンの転写鋳型活性の相関について調べた。すなわち凝集したnativeな構造のクロマチンと、それに超音波処理を加えてより凝集化の少ない構造にしたもの、さらに熱変性させたDNAの3種の構造の異なる鋳型を用い、それぞれにEGTAを加えて転写させた結果、最も凝集した構造の、nativeなクロマチンの場合のみ100μM以下の少量のEGTAで鋳型活性の増加が認められた。このことは【Ca^(2+)】によるクロマチン構造の凝集化が転写鋳型活性の調節に関与していることを示している。またあらかじめクロマチンをDNase【II】で4種のフラグメントに断片化したものを【Ca^(2+)】あるいはEGTA存在下でゲル濾過を行うと、軽度に分解されたフラグメントのみが【Ca^(2+)】によって凝集し、より大きなサイズへ移行した。それにともない転写鋳型活性の低下ならびに最大の鋳型活性を示すクロマチン画分が高分子側へ移行しているのが認められた。またin vivoにおける【Ca^(2+)】の影響をみるため【Ca^(2+)】欠乏根と【Ca^(2+)】供与根からクロマチンを調製して比較すると【Ca^(2+)】欠乏根のクロマチンの構造が不安定になっているのが示された。
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