研究概要 |
細胞性粘菌の形態形成、特に子実体形成に重要な意義をもち、直径4nmの微小繊維の束からなる柄鞘(以後、SSMと略称)について、その構造を位相差および蛍光顕微鏡でモニターしながら、以下に示す分析を行った。1)PAS(periodic acid Schiff)反応:セルローズ,グリコーゲン,キチン等の1,2-グリコール群を含むか、同じ構造でOH基が【NH_2】基あるいはNHR基に置換された物質を赤紫色に染めるこの反応において、SSMは全く陰性であった。2)セルラーゼ処理:セルローズを特異的に分解するセルラーゼ37℃2時間処理によって柄細胞壁は完全に溶解したが、SSMは全く分解されずその構造を維持した。3)カルコフオール染色:β1,4-結果のセルローズやβ1,3-結合のカロール等の多糖類を蛍光染色するカルコフルオールは柄・胞子細胞壁のみならずSSMを強く染色した。4)元素分析:SSMについて、C約43%,H約6.3%(Nは0%)という結果が得られ、この値は糖の分析値に近いことが示された。5)赤外(IR)吸収スペクトル:SSMが示すスペクトルは糖の存在を示唆した。6)核磁気共鳴(NMR)スペクトル:IRの結果と同様、SSMが糖から構成されることを強く示唆した。7)部分あるいは完全分解されたSSM標品のシリカゲル薄層クロマトグラフィー等による分析は、SSMの大部分(約90%)がグルコースであることを示した。以上の結果は、柄細胞壁は主としてセルローズからなるが、SSMはグルコースを主要構成糖とするもののセルローズのような直鎖状多糖ではなく、非常に多くの分枝をもつ複雑な網状多糖であることを示唆している。SSMにおけるこのような複雑かつ強固なグルコース結合のネットワークはまた、このポリマーに物理化学的な強度を与えてると考えられる。SSMの生合成・分解の機構および高次立体構造の解明が今後の課題である。
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