研究概要 |
本研究の目的は, 甲殻類動物の十脚類(エビやカニ)に特異的に発達している囲心腔分泌器官の機能に着目して, その分泌活動が, どの様な行動や運動に関連して起こるのか, その神経ホルモン類が, 体性運動と血液循環の調節に, どのように関与しているかを明らかにすることであった. 研究材料にイセエビとザリガニを用い, 電気生理学的方法とビデオ録画装置を用いて, 先ず, 動物に電極や血圧計を植え込み, 様々な行動を自由にとらせながら, 心拍および血圧変化の循環活動を同時に記録することに成功できた. 次に, 独自に開発した生理学的検定法を用いて, 囲心腔ホルモン類と同じ活性を示すものが, 血液中に存在することを確証し, それらの濃度を調べることに成功できた. 更に, その主要ホルモン類(セロトニン, オクトパミン, プロクトリン)の中枢神経系への作用を検討した結果, これらは, 遊泳運動の中枢の自発活動に対して, それぞれ, 特異な変調作用を及ぼして働くものであることがわかった. 最後に, 囲心腔ホルモンの分泌を担っている靭帯神経のインパルス活動を直接記録して, 分泌活動の起こる条件を探ってみた. その結果, 体内に冷刺激を与える(例えば, 体温を20度から15度に下げる)と, 靭帯神経中の少なくとも3種の軸索が発火を開始することがわかった. なお, イセエビの囲心腔分泌細胞は, 他の甲殻類や軟体動物の分泌細胞でも見られている自励的興奮を起す可能性も示唆された. また, 間接的な証拠ではあるが, 摂餌や逃避行動などの激しい運動の最中に, 分泌活動が起こることが暗示された. 以上, 研究目的に沿って, イセエビとザリガニの行動レベルから器官や細胞の活動レベルに渡って実験を行って調べた. その結果の詳細は, 成果報告書に論述した. 解析は, まだ十分とは云えないので, 本研究成果を元にして, 今後, なおも研究を進めて行き, 動物生理学および循環生理学の発展に寄与して行きたいと考えている.
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