研究概要 |
多くの昆虫においてビテロジェニン(Vg)の合成はホルモンの支配をうけており、ホルモンによる遺伝子発現の調節に関する研究においてきわめてよい実験系を提供している。しかし昆虫類のVgの生合成後のプロセシングに関する報告は少ない。遺伝子発現の調節を知るうえで、生合成後のプロセシングの解析は重要な側面である。本研究はVgのリン酸化による翻訳後修飾の解析を目的とした。これまで昆虫類のVgは両棲類、鳥類と異り蛋白結合型のリン酸は存在しないか、きわめて少いとされていたため、リン酸化による修飾に関する研究は皆無であった。筆者らはプロテインキナーゼの生体内基質の検索の途上にVgガリン酸化をうけていることを見出し、リン酸化機構の存在について最初に報告した。カイコにおいてVgは脂肪体より分泌される以前、および卵巣にとりこまれた後に更にリン酸化がおこることが32P-標識法により明らかにされた。ほゞ時を同じくしてMahowaldらによってもショウジョウバエを用いて示されている。本研究において、バッタ,ゴキブリ,エリ蚕のビテロジェニンにおいても同様なリン酸化がおこることが示され、昆虫類ビテロジェニンが広くリン酸化による修飾をうけていることが明らかとなった。 更に蛋白結合型のリン酸基のうちの一部が蛋白構造の表面に露出していることが明らかとなった。化学的にリン酸の定量を行った結果、重鎖においては、8モル/サブユニット,軽鎖においては4モル/サブユニットであることから、その総量は24モルと推定される。このうち4モルのリン酸基のみが表面に露出している。この表面のリン酸基が、Vgの輸送,蓄積,利用などの過程において、何らかのシグナルになっているものと予想されるが、今後の問題と思われる。
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