研究概要 |
発生現象の最も本質的な問題の一つに軸性がある。球形の卵から頭尾や背腹の区別のある成体が形成される基礎は胚の軸性にあるといってよい。発生に伴う細胞の分化が頭尾軸や背腹軸にそって起きることは、実験形態学が繰り返し示したことであるが、これらの軸性が何によって決められるかについては触れることができなかった。近年、遺伝子工学のめざましい進展によって、動植物の多くの遺伝子の構造が解析されるようになり、そのなかには体節構造との関係が考えられるホメオボックスのような遺伝子の存在も報ぜられ、軸性を決定する機構についても解明の糸口がえられようとしている。 軸性には卵にみられる動植物軸のほかに、胚発生の過程で形成される頭尾軸,左右軸,背腹軸などが考えられる。動植物軸については、ウニ卵を中心に多くの研究があるが、どのような遺伝情報が発現して軸性が形成されるかについては、ほとんど分かっていない。 メダカでは、背びれの形状が尻びれ状になり、尾びれも菱形を呈して、後体部の背腹軸が消失したかにみえる突然変異Daがあり、名古屋大学理学部淡水魚類系統保存実験施設でその系統が保存されてきた。本研究では、この系統について背腹軸決定の機構を解析するために、まずその発生における背腹軸の決定時期と、背びれ,尻びれ,尾びれの形成過程を調べた。その結果、メダカの後体部の背腹軸の決定は、すでにふ化前に起きていること、尾びれの原基中に発現するひれすじがDa系統では脊髄の背側と腹側に分布することを明らかにした。またウニ胚でえられた知見を応用して蛋白分解酵素,細胞外マトリックス物質などがメダカのひれ形成に及ぼす影響を調べたが、顕著な結果はえられなかった。
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