研究概要 |
マウスを材料として, 同系他個体の下垂体を異所性移植して高プロラクチン血症を引起してやると, 乳癌, 子宮腺筋症, 膵臓の過形成が発生することが判明した. そこで, 高プロラクチン血症により引起される疾患の, 共通する発生機序を明らかにすることが本研究の最終目標であった. 1.乳癌の発生過程におけるプロラクチンの作用は, 乳腺細胞のDNA合成を盛んにすることにより, 異常増殖を引起すことが原因である. 本研究により, プロラクチンは乳腺細胞の増殖を促し, 過形成結節を発生させるが, 結節が癌化する時点でそれら細胞群はプロラクチンに対する感受性を失うことが明らかになった. すなわちプロラクチンは乳腺の細胞分裂を盛んにすることにより発癌を促すのである. 2.高プロラクチン血症により子宮腺筋症が発生する過程は, 筋層を構成する平滑筋細胞の崩壊と, 子宮腺の異常増殖が根本的変化であることが判明した. プロラクチンの作用部位であるこれら2つの組織において, プロラクチンの持続的作用により腺上皮の細胞分裂の促進, 平滑筋細胞の分裂抑制が起ることが子宮腺筋症の発生原因であることが明らかになった. 3.高プロラクチン血症マウスを長期間飼育すると, 膵臓の過形成さらには腫瘍化が多発することを発見, この事実を論文として発表した. 予備実験により, プロラクチンが膵臓の内外分泌腺の細胞分裂を促進することが, 腫瘍化の原因となるらしいことが明らかになった. すなわち, 高プロラクチン血症によって引起される乳癌, 子宮腺筋症, 膵臓腫瘍の共通病因は, それぞれの主要組織に異常な細胞分裂(DNA合成)を促進することによるらしいことが明らかになった.
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