研究概要 |
本研究は電界イオン顕微鏡(FIM)を用いてタングステン表面に吸着する酸素の挙動を原子オーダで解析するとともに、吸着酸素の金属間凝着低減の機構について実験的検討を加えたものである。真空排気系の設計により、数ラングミュア(L)から数万Lまでの酸素露出量調整が可能となった。清浄なタングステン表面への酸素吸着は仕事関数の低い{112}及び{100}面から開始し、タングステン線材では通常中央に位値する{011}面は仕事関数が最も大きいために酸素吸着が最も遅れ、全結晶面を覆うには200L以上を必要とした。FIMを電界放射顕微鏡(FEM)としても利用し、フィールドエミッション電流の測定から酸素吸着による仕事関数の変化を測定する一方、オージェ電子分光によってO-KLL/W-NOOのピーク比の比較から被覆率を較正した。上記2手法による解析結果は極めて良い一致を示し、酸素露出量200Lで仕事関数の増加量が0.8eVの飽和値をとるとともに、被覆率も1となってFIM観察浩果を裏付けている。清浄なタングステンチップと金との凝着では75〜150μNの凝着力が測定されたが、200L以上酸素を露出した場合ではほぼ零となった。誘起される格子欠陥の深さ方向への分布も前者の場合20〜50原子層,後者ではほぼ零であった。16L及び60L等の被覆率が1以下の吸着状態では両者の中間的な凝着特性を示すことから、金属間凝着を完全に防止するためには200L以上の酸素露出量が必要であることが明らかとなった。転位が活動するすべり面としては金属間凝着の場合には{011}に垂直な面に限られていたのに対し、酸素が吸着すると凝着力を低下させて平面に平行に近いすべり面が活動することがわかった。以上のような結果はスペーストライボロジ,特にスペースステーション等の500Km前後の高度で作動する機械要素の摩擦,摩耗という問題に有用な指針を与えると期待できる。
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