研究概要 |
電力周波数電界が生体にカップリングすると、生体の接地インピーダンス,生体表面の凹凸に応じて表面に電界が生じ、体内にはその電界強度に比例する微小電流が誘導される。このような電流が長期間体内に誘導される場合に生じる影響が電界の人体影響と呼ばれるが、一般にこのような電界は屋内外を問わず広く分布しているためにその影響が懸念され、世界保健機関(WHO)においても詳しく討論された経緯がある。 本研究は電力周波数が人体にカップリングした際に誘導される微小電流を定量的に把握するために行われた。実験には高圧電極(2×2)m,接地電極(3.6×3.6)m,間隔1mの平行平板電極を用い、10kV/mの平等電界の下でモデルの誘導電流の測定を行った。また、計算には電荷重畳法および有限要素法を用い、スケーリングファクタの検討および脳内部の誘導電流密度の算定を行った。本研究より下記の点が結論される。 1.本実験では高電界における測定を行うので、ノイズ対策には光技術等を応用し、また微小電流の測定用にリードリレースイッチ論理回路を用い、高精度の測定を可能にすることができた。 2.人体誘導電流の測定を行い、頭,胸,腹等における電流密度を定量化した。これは実験動物のスケーリングファクタ(SF)を決定する際のベースとなる重要なデータである。また、電荷量畳法および有限要素法によるモデル計算結果に基づいてSFの基礎的検討も行った。 3.人体頭部を頭皮,頭骨,脳脊髄液層および脳に分割し、そこに誘導される電流の密度をコンピュータモデリングにより解析した。脳の電流密度の大小は主として頭骨および脳脊髄液のインピーダンスに左右されることが初めて定量的に明らかにされた。今後は頭骨のインピーダンスの精密測定を行う必要がある。
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