研究概要 |
本研究では、実用上特に問題となる水素ガス不純物によるボイド形成の機構を明らかにするために、純Al及びAl-Mg,Al-Si,Al-Ag各希薄合金を高温から急冷し、過剰空孔が凝集してボイドを形成する過程を陽電子消滅寿命法によって追求した。新たに得られた知見・成果を以下に要約する。 1.6N純Al(99.9999%)に、(1)水素ガス雰囲気からの急冷,(2)塩酸中への急冷,(3)食塩水中に急冷後グロー放電により水素チャージ,(4)食塩水中に急冷後電気分解法により水素チャージ,の何れの処理を施した場合にも、その後の等時焼鈍過程においてボイドが形成されることを示し、Al中の水素によるボイド形成を再確認した。 2.急冷前もしくは急冷中に水素を導入した場合の方が、急冷後に水素を導入した場合よりもボイドの生成比率が高いこと、また後者の場合、急冷温度が低いほどボイドの生成割合が高いことを見出した。 3.上記の結果に空孔反応の計算機シミュレーションを併用することによって、水素を含まず大きな原子的緩和を伴った三重空孔【V_3】と四重空孔【V_4】はFaulted転位ループに、一方内部に水素を含んで構造緩和の起きなかった【V_3】と【V4_】がボイドに成長すると考える新たな核のモデルを提案した。 4.Al-Mg,Al-Si,Al-Ag各希薄合金では、水素を導入してもボイドが形成されないことを示した。これは、これらの溶質原子が固溶水素を捕獲し、上記3で述べたボイド核の形成を妨げるためと解釈される。 5.5N純Alでは6N純Alに比べてボイドが形成されにくいことを見出した。この結果は、10ppm程度の不純物でも水素によるボイド核形成を妨げるためと解釈される。
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