研究概要 |
固体内の原子の拡散現象の多くは、空孔を媒介にしている。また、高エネルギー粒子線照射下での拡散現象は、空孔の他に格子間原子に支配されている。したがって、空孔の形成エネルギー(Ef),移動の活性化エネルギー(【E(^s_m)】)および、格子間原子の移動の活性化エネルギー(【E(^i_m)】)は重要な定数であり、これらの定数を求める方法を確立することを目的とする。 1.超高圧電子顕微鏡を用いて、高速電子線照射下で形成させる転位ループを「その場」観察し、転位ループの核形成・成長過程を明らかにした。この過程とEf,【E(^s_m)】および【E(^i_m)】の関係を明らかにし、MgOについて【E(^s_m)】=2.0eV,【E(^i_m)】=0.05eVを得た。 2.MgOにFe,Ni,CrまたはCoを添加した結晶を準備し、1.とほゞ同様の実験を行なった。その結果、添加元素の顕著な効果はみられなかった。 3.【Al_2】【O_3】に関して同様な実験および解析を行なった。【Al_2】【O_3】は構造空位を含み、この結晶中の転位ループの挙動はMgOのそれと異なり、この結晶の構造空位に大きく支配されていることが判明した。この速度論を明らかにし、実験結果を解析して【E(^i_m)】=0.76eVを得た。 4.電子線照射したMg【Al_2】【O_4】には転位ループは形成されず、点欠陥の性質に関する情報を得ることはできなかった。しかし、Mg【Al_2】【O_4】は耐照射材料として有望であることが判明し、その理由を明らかにした。 5.電子線照射によって形成される転位ループの挙動は、転位ループの核の大きさ、および構造空位等に支配されており、今後、種々の金属酸化物中の転位ループの核の大きさおよび構造を系統的に調べる必要がある。 5.金属酸化物結晶の電子顕微鏡用薄膜試料の作成法として、イオン研摩法の問題点を指摘し、化学研摩法の提案を行なった。
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