研究概要 |
鉛-銀系合金アノードの特性に及ぼすタリウム合金化の効果を調べた。鉛-銀-タリウム3元系合金を硫酸溶液中で電流密度50mA/【cm^2】、温度40℃で定電流アノード分極し、電位の時間変化、48時間分極後の電位の測定、アノード酸化物層表面のX線回折およびSEMによる形状観察を行った。また、タリウムの合金化による電解実操業でのアノード特性への影響を推定するために長時間分極時のスライム生成量の追跡を行った。 試料の銀含有量は0,0.2,0.4,0.7wt%の4水準とし、タリウム含有量は1.3wt%までとして急冷および徐冷凝固によって組織の異なる試料を調製した。 アノード電位に及ぼすタリウムの合金化の影響は小さく、急冷、徐冷凝固いずれの試料でも、Ag含有量0.2%ではTl0.3〜0.6%でやや電位の低下がおこるが高い銀含有量の合金ではTlの合金化によって電位が高くなり、0.5%以上のTl含有量でほぼ一定の値に留まるという傾向がみられた。 X線回折の結果から、Tlを合金化した試料では、β-Pb【O_2】がアノード皮膜の主要酸化物となるAg含有量がPb-Ag2成分系合金に比較して低くなり銀の効果が顕在化されることが示された。Pb-Tl-Ag3元系合金アノードでは低い銀含有量からアノード酸化物層が緻密な構造をとりはじめ、Tlの合金化による影響が明らかにみられた。これらはAgが共存してはじめておこる現象であり、Tlのみの鉛への添加ではみられなかった。 Tlの合金化が最も顕著に影響を及ぼすのは長時間電解におけるスライム生成量に対してである。Pb-Ag2元系合金に比較してPb-Ag-Tl3元系合金ではアノード表面から剥離するアノード生成量が著しく抑制され、アノード表面へのPb【O_2】固着量が大きくなる。
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