研究概要 |
本研究は、オートクレーブを用いて鉄基合金試料の腐食挙動および不働態化過程を電気化学的に調べるとともに、表面に形成される不働態皮膜の組成および構造をオージェ電子分光法を用いて調べ、高温高圧水中における鉄基合金の耐食性に関する基礎的知見を得ることを目的として計画された。1.22℃〜250℃の温度範囲、ホウ酸塩水溶液中におけるFe-26Cr合金の腐食挙動を分極曲線の測定より調べた。Fe-26Cr合金の自然浸漬電位は温度の上昇とともに卑の方向に移動した。また、Cr成分の過不働態溶解電流ピークは温度とともに増加し、ピーク電位は卑の方向に移動する。分極曲線の測定より、不働態皮膜中にCr成分が安定に存在する電位領域が温度の上昇とともに狭くなることが判った。 2.ホウ酸塩水溶液中、200℃,各電位で90分間保持した試料の深さ方向の組成分布をオージェ電子分光法とアルゴンイオンスパッタ法を併用して調べた。自然浸漬電位で試料表面のCr成分の濃縮は最大となるが、保持電位が自然浸漬電位よりも貴になるにつれて、最表面のCr成分の濃縮は減少し、Cr成分の過不働態溶解が進行する電位では、最表面にCr成分の存在はほとんど認められなかった。Cr成分の過不働態溶解が進行する電位領域では、試料表面に0.1μm以上の比較的厚い酸化皮膜が形成され、皮膜外層は鉄酸化物のみからなることが判った。 3.不働態皮膜の深さ方向の組成分布の解析から、高温高圧水中で形成される不働態皮膜に特徴的なこととして、下地合金の内部酸化が進行することが明らかになった。内部酸化層のカチオン分率はほぼ合金のバルク組成に近く、Cr成分の欠乏層が存在しないところから、内部酸化層は皮膜外層を拡散してくる酸素イオンと下地合金との直接酸化により形成されることが予想される。
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