研究概要 |
従来, シクロプロペニウムイオン, シクロプロペノン及びシクロプロペンチオンは高歪み最小員環芽芳香族系(ヒュッケルの(4n+2)π則のn=Oに反応)として, その特異な電子構造に主たる関心が寄せられていた. 本研究では, 安定で取扱いが容易なトリチオシクロプロペニウムイオン及びその誘導体の高歪み環開裂による反応に注目し, この新現な骨格変換反応に基づく新しいπ電子系の合成について検討した. また, 得られたπ電子系化合物に特異な物性が期待されるので, 今後の検討により画期的な機能性物質になりうるものと予想される. 本研究中に合成された3つの化合物にくいてその概要を述べる. (1)トリーn-ブチルホスフィン触媒存在下ビフ(ヒドロキシフェニル)シクロプロペンチオンは二量化レテトラキマ(ヒドロキシフェニル)チエノ〔3.2-b〕チオフェンを与えた. このチエノチオフェンは2電子及び4電子酸化体と安定な可逆的レドックス系を作り上げ, かつ3者の間で鮮明な色調変化を示すことより新しい型の3色系統有機エレクトロクロミツク材料作製用の構成成分になりうることを明らかにした. (2)分極性ジシアノージチオあるいはジフェニルカリセンとジアミノフルベンとの反応により, アズレノフルベンやキノイド型ペンマレンの新しいπ電子系が合成された. これらは基底状態で極めて大きな分極を示すことより, 非線型光学用新素子として注目される. (3)環状ビカリセンに加えて, 環状トリー及びテトラーカリセンの合成を行い, それらの電子構造をNMR, X線結晶構造解析及び分子軌道計算より検討した. いずれの環状カリセンにおいても各カリセンユニットは大きな分極を示した. 従って, 分子内に正負交互に荷電した4, 6, 8個のサイトを有するpolyelectro.lyteと看做すことができ, この特異な構造に基づく物性に興味が持たれる.
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