研究概要 |
主鎖に平行な双極子能率を持つ屈曲性高分子の分極は末端間ベクトルに比例するので、このようなポリマーの誘電緩和"規準モード過程"を測定すると静的情報として、二乗平均末端間距離〈【r^2】〉,動的情報として末端間ベクトルのゆらぎの緩和時間Τnとその緩和時間分布を知ることが出来る。本研究ではこの方法を用いてシスポリイソプレン(cis-PI)等の準希薄および濃厚溶液における〈【r^2】〉およびΤnの濃度依存性を測定し、理論と比較した。 θ溶媒であるジオキサン中の〈【r^2】〉は理論から予想されるように濃度に依存しないことがわかった。この結果は双極子間相互作用の緩和強度への寄与が無視できることを示す。良溶媒のベンゼン中では〈【r^2】〉の濃度依存性の異なった四つの領域、すなわち希薄I,準希薄【II】,準濃厚【II】',濃厚領域【III】が見出された。領域【II】では〈【r^2】〉は濃度Cの-1/5乗に比例し、スケーリング理論で説明できるが、【II】'域ではこの理論の上限である-1/4乗よりも強い〈【r^2】〉の濃度依存性が見られた。このような挙動は小角中性子散乱によるDaoud等およびKing等の測定でも全く認められなかった新しい領域に対応し、Edwardsの理論で定性的に説明できた。同様な挙動がベンゼンよりやや溶解性の悪いヘキサデカン溶液でも認められ、領域【I】,【II】,【II】'【III】を区別する相図を作製した。 緩和時間を等摩擦係数の値Τnsに換算し、濃度依存性を動的スケーリング理論と比較した。θ溶媒およびベンゼン中のΤnsはそれぞれCの1.6および1.3乗に比例し、de Gennesのすぬけ理論の予言する2.0および1.0乗とは一致しない。緩和時間の分布は種々の因子の影響を受ける可能性があり、計算機シミュレーション等で誤った予測がなされていたが、排除体積効果や流体力学的相互作用は緩和時間分布にあまり大きな影響を持たず、分子量分布の影響を強く受けることが解明された。
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