研究概要 |
糖加水分解酵素であるリゾチームは、糖転移反応を高能率に触媒するが、その分子機構は明らかでない。リゾチームは6個の基質結合部位(A〜F)から成り、部位E,Fは糖転移反応の能率に関与する。そこで、リゾチームの糖転移反応の分子機構を明らかにするため、ホロホロ鳥卵白リゾチームを用いて、ニワトリリゾチームと比較しながら、部位Fと転移反応の関連を検討した。ホロホロ鳥卵白リゾチームは、部位FのArg114(ニワトリリゾチーム)がHisに置換している。ホロホロ鳥卵白リゾチームは、【(GlcNAc)_5】を基質として、反応生成物のタイムコース(実験タイムコース)を測定し、さらにコンピュータ・シミュレーション法による計算から、速度定数と基質結合部位の結合エネルギーを求めた。ホロホロ鳥卵白リゾチームの実験タイムコースの特徴は、ニワトリリゾチームと比較して、反応初期に【(GlcNAc)_4】が増大することである。【(GlcNAc)_4】の増大は糖転移反応の減少により起こり、Arg114のHisへの置換は糖転移反応を減少させると考えられた。各種pHでタイムコースを求めた結果、糖転移反応がpH5付近で急激に減少し、ニワトリリゾチームと異った変化を示した。この糖転移反応のpH依存性から、【His_(114)】のイミダゾール基の解離条件が転移反応に影響すると推定された。His114をジエチルピロカルボネートで修飾したリゾチームは、【(GlcNAc)_4】と【(GlcNAc)_1】,【(GlcNAc)_2】と【(GlcNAc)_3】が等量ずつ生成するタイムコースが得られた。このタイムコースのパターンは糖転移反応が消失し、加水分解反応のみが検出されたことを示している。これらの結果から、基質と転移反応のアクセプターは部位Fの異った位置に結合することができ、リゾチームの反応中に酵素-基質-アクセプター複合体が形成され、糖転移反応を能率よく進行させると推定された。 今後、部位Fへの基質とアクセプターの結合様式を明らかにする計画である。
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