研究概要 |
著者らは低温貯蔵中の魚体脂質の酸化が皮で選択的に進行することを指摘し、少脂魚皮のTBA/Kg皮は多脂魚の皮より低いが、TBA/10g脂質に換算すると高い値になることから少脂魚皮には脂質酸化促進物質が存在していると推定した。この物質はリポキシゲナーゼ(LOX)と思われたので精製して酵素化学的諸性質を明らかにしたいと考えた。本研究において酵素活性はMatsudaらの紫外部吸収法で測定した。イサキ皮から佃の方法に準じて抽出液を調製し、セファデックス(Sep)G-100を用いたゲルろ過で3つの活性画分(Frs.A,BおよびC)を得た。分子量が最も大きいFr.AをDEAE SepA-50を用いて精製し、精製酵素を得た。本酵素とリノール酸(LH)およびリノール酸メチルとの反応生成物のTLCにおけるRf値は大豆LOXによって生成したハイドロパーオキサイドのRf値と一致した。LOXの至適pHは6であり、pH7付近が最も安定であった。100℃、20分の加熱処理ではほとんど失活した。基質特異性はLHの反応量を100とするとリノレン酸58,アラキドン酸40,リノール酸メチル18およびリノレン酸メチル19であった。LHに対するKm値は6.81×【10^(-3)】Mであり、最大速度は3.11μM/minであった。分子量はSep G-100ゲルろ過法で174,000であった。また、イサキ皮,血合肉およびマサバ皮の抽出液をSep G-100で分画して比較すると、イサキ血合肉およびマサバ皮の脂質酸化促進活性はイサキ皮のFr.Cに相当する画分にのみ存在した。Frs.BおよびCの分子量は約70,000と17,000であり、これらはヘモグロビンおよびミオグロビンの分子量に近似していた。至適pHや熱に対する性質からも本酵素はヘム化合物ではないと思われる。更に、Sep G-100ゲルろ過で少脂魚であるイサキ皮のLOX画分が多脂魚であるマサバ皮にまったくみられなかったことから、魚の低温貯蔵中の少脂魚の皮のTBA/Kg皮が多脂魚のそれに比べて低いが、TBA/10g脂質が高いのは本酵素によるところが大であると考えた。
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