研究概要 |
家禽の精子を体外で保存した場合にみられる、精子の活力および受精能力の著しい低下は、精子の膜の機能が大きく変化することにも起因している。本研究では、とくに精子の膜脂質の変化ならびに膜の透過性の変動に着目して、体外保存あるいは種々の精液希釈剤によって精子の膜の機能がどのように変化するのかを追究した。得られた結果の主なものは次の通りである。 (1)鶏の射出精子は好気的下条件下におかれると容易に脂質の過酸化が生ずることが観察された。また精子を適当な希釈液で希釈して保存した場合、液のpHあるいは保存温度(0,5,10℃)によって脂質の過酸化の程度に顕著な差異はみられなかった。しかし精子の過酸化脂質の産生量は雄鶏個体間にかなり差のある事が認められ、精子膜の機能が遺伝的に支配されている可能性が示唆された。この点はさらに追究して行く必要があるように思われる。 (2)精液希釈液に抗酸化剤を添加した場合、または血液保存として使用されている液(ACD)を用いて精子を保存した場合には、精子の過酸化脂質の産生が著しく抑制された。このことは、精液希釈液または保存用液の構成々分を改良することによって、精子の、主として膜の機能はある程度正常に保持されるということが推察された。 (3)鶏および七面鳥精子を体外で低温保存すると、精子の膜の透過性は増大することが観察された。しかも保存時間を長くすることによって、その傾向が強くなることも確認された。しかしこれら2種類の精子を凍結保存した場合には、膜の透過性に関して正反対の現象がみられた。鶏精子の膜の透過性は凍結によって増加したが、七面鳥精子の場合には逆に低下した。したがって、この両者の精子の膜の機能には若干相違のあることが推察された。このように家禽の種類によって精子の膜の機能に差異のあることが考えられるので、今後はさらに、他の家禽の精子についても検討して行く必要があろう。
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