研究概要 |
1.低いカルシウム濃度でアクチンとミオシンのあいだに形成されたクロスブリッジは, ほとんど張力を発生しない. ラットの心室乳頭筋の細胞表面膜をサポニン処理によって壊し, 細胞内カルシウム濃度を細胞外から制御した. カルシウム濃度が閾値(pCa6.2-6.0)を越える収縮張力が出はじめ, pCa5.0に達すると最大収縮張力が発生した. X線解析法で調べたところ, 最大収縮時には全てのミオシン頭部のうち80%がアクチンと結合していた. しかし, カルシウム濃度が閾値を越えたばかりで, 未だ低いとき(pCa5.8), 収縮張力が最大張力の20%未満であるにもかかわらず, 最大収縮時の約半数のミオシン頭部がアクチンと結合していた. これらの結果に基づき, 低いカルシウム濃度で結合したミオシン頭部の多くは, 有意な張力を発生しないと結論した. 2.心筋は強いX線に当たると硬直状態になる. シンクロトロンから出る波長は1.5A2F2の強力X線を, 拍動中のラット心室乳頭筋に1分間照射したところ, 拡張期張力が上昇し, 等尺的収縮張力が約30%減少した. このときのX線解析像から, 心筋が部分的に硬直状態に陥ることがわかった. 3.収縮頻度によって拡張期末の分子状態が変わる. ラット心室乳頭筋の収縮頻度を0.2-Hzの範囲で変え, 収縮と拡張に伴う赤道反射の変化を高速X線回析法で追跡した. 収縮期にミオシン頭部はアクチンのまわりに集まるが, その時間経過は, 張力の上昇に約10ミリ秒先行した. 収縮期後半から拡張期にかけて, ミオシン頭部がアクチンから離れるが, その時間経過は張力の下降より遥かに遅く, 時定数が約4秒であった. このため, 拡張期末, すなわち次の収縮期の冒頭の分子状態が, 収縮頻度によって変わることがわかった.
|