研究概要 |
1.Modulated receptor仮説(Hille 1977;Hondeghem,Katzung 1977)にもとづいて心筋【Na^+】チャンネルと抗不整脈薬の結合・解離に関するモデルを設定した。次いでモルモット心室筋を用いて、膜電位固定法と活動電位記録を組合せた実験により、キニジンとリドカインの活性,不活性,静止の各状態の【Na^+】チャンネルに対する結合・解離定数を求めた。これらの数値を用いて、活動電位最大立ち上り速度(Vmax)の使用依存性抑制(use-dependent block,UDB)に関するコンピューターシミュレーションを行い、モデルの妥当性を確かめた。 2.モルモット心室筋に対して、各種第I群抗不整脈剤存在下で、静止電位から0mVへ矩形波状の膜電位固定(clamp pulse)を行い、clamp pulse後の活動電位Vmaxの変化から、各薬剤と【Na^+】チャンネルの結合が活性または不活性、いずれの状態で生ずるかを検討した。その結果、キニジンとジソピラミドは活性化チャンネルブロックが主体であるのに対し、リドカイン,メキシレチン,トカイナイド,アプリンジンは不活性化チャンネルブロックが主体であることが判明した。後者の薬剤は活動電位持続時間が長い程、【Na^+】チャンネル抑制が強いことが示唆された。 3.心筋【Na^+】チャンネル抑制に関するアプリンジンとリドカインの相互作用を検討した。モルモット心室筋に対してアプリンジン存在下でリドカインを追加投与するとVmaxのUDBが減弱し、0.5〜1.0Hzの定常状態におけるVmaxが増大した。この機序として、両薬剤が心筋【Na^+】チャンネルの共通の受容体部位に対して競合的に作用し、受容体からの薬物解離の遅いアプリンジン結合チャンネルの一部が薬物解離の速いリドカイン結合チャンネルで置き換えられることが示唆された。
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