研究概要 |
血小板において、カルシウムイオオンは、その機能発現にさいして、フォスフォリバーゼA2、フォスフォリパーゼCの活性化など、リン脂質の分解系に大いに関与している。一方、フォスファチジルコリン(PC)、フォスファチジルエタノールアミン(PE)、フォスファチジルセリン(PS)など主要なリン脂質の合成に対しても種々の影響を及ぼしている。本研究においては、これらのリン脂質の合成に対するCaイオンの役割、さらにカルモジュリン、カルモジュリン阻害剤の影響について、ウサギ血小板を用いて検討した。PSはCa要求性のリン脂質塩基交換反応によって合成されるが、ウサギ洗浄血小板に、クロルプロマジンなどの、Ca結合蛋白の一つであるカルモジュリンの阻害剤を作用させると、細胞内の遊離のセリンの減少、コリン、エタノールアミンの増加をともない、PSの塩基交換反応による合成のみが顕著に促進された。しかし、血小板膜標品をもちいると、PSのみならず、PE,PCを合成する塩基交換反応も、カルモジュリン阻害剤により著名に促進された。さらにこれらの3種の塩基交換反応は、他の二種の塩基により互いに抑制された。血小板内の三種の塩基の含量からこれらの細胞内濃度を求め、その濃度で三者が共存すると、PSを合成する塩基交換反応の活性が最も高かった。一方、PE,PCは、主としてCDP-コリン,CDP-エタノールアミンからMg,Co,Mnをcofactorとして合成されるが、Caは、MnよりMg,Coをcofactorとする場合に、顕著な阻害を示した。Caによる阻害の機構は、これら酵素の金属結合部に直接に作用していることが示唆された。血小板凝集において、Caは必須とされており、またカルモジュリン阻害剤は凝集を抑制することが知られている。これらの、Ca、カルモジュリン阻害剤は、リン脂質の分解系のみならず、PS,PC,PEなど、膜の主要なリン脂質の合成を調節することにより、血小板の機能に関与することも充分に考えられる。
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