研究概要 |
ザリガニの巨大神経を用いてグルコースのNaチャンネル抑制作用における分子機構の解明をおこなった。実験は60〜61年度に亘り次の内容において行なわれた。(1)方法論的確立。(2)グルコースとNaチャンネル・レセプターの反応様式。(3)その結合エネルギーの測定。(4)グルコースとNaチャンネル・レセプターの反応における立体構造特異性の証明。(5)グルコース作用のpH依存性。(6)【Na^+】に対するNaチャンネルの結合点の親和性変化。結果:先ず、(1)の技術的詳細に関してはこゝで言及することはできないが、本実験で不可避に生じるグルコースの非特異的作用-viscosity effectとosmotic effect-を理論的かつ定量的に見積もり真のグルコースの薬理学的作用について解析を行なった。グルコースとNaチャンネル・レセプターの反応様式はone-to-one stoichiometryを示し、反応の温度依存型から測定した結合エネルギーは19.7kcal/moleと非常に大きいものであった。また、グスコースの立体構造異性体やアナログを用いたグルコースとの作用比較(いずれもグルコースよりも作用が弱い)から、グルコースが持っている【C_1】,【C_2】,【C_3】,【C_4】位のいずれの水酸基も立体特異性を持ってNaチャンネルの抑制作用に関係していることが分かった。この(3),(4)の実験結果はグルコースの水酸基がNaチャンネル・レセプターと水素結合するとしてよく理解できるものであった。グルコースはNaチャンネルの【Na^+】への結合の親和性を変えず、また【H^+】のそれにも影響を与えなかった。この(5),(6)の結果はグルコースはNaチャンネルのconformationには変化をひきおこすことなく単なるチャンネルの栓のように働くことを示唆している。 今後、このグルコースのNaチャンネル抑制の機構をさらに詳細に追究するとゝもに、グルコースが哺乳動物の中枢神経系においてニューロンの興奮性の調節や糖尿病の末梢神経症状等の病態生理学と関連性を有する可能性についてさらに研究をすゝめたい。
|