研究概要 |
鉄過剰症に由来する肝癌の発生は全肝癌の20%を占める. また鉄過剰症の死因の主要をなすのは心筋に沈着した鉄(ヘモジデリン)による心不全によることが知られている. このような鉄による発癌の機序並びに細胞障害の機序を鉄錯体による局所の活性酸素発生との関連に於いて解明しようとしたのが本研究の目的である. 我々が1979年に初めて鉄過剰症の実験モデル作成に成功したのは, Ferric nitrilotriaoetate(Fe^<3->-NTA)をラット及び家兎の腹腔に長期注射することによってである. 偶然にもこのFe^<3+>-NTAが水溶液に溶存する酸素を活性化する能力を持つことを発見し, Fe^<3+>-NTAの構造と活性酸素発生の機序をElectron Spin Resonance(ESR)を用いて詳細に解明することに成功した. この時Fe^<3+>-NTAはH_2O_2をOHラジカルに変換する強力な作用を有することをも発見した. 鉄に由来するこれらの活性酸素の細胞に及ぼす作用を解明するため, ラット正常肝細胞株RL-34を用いた, この株はほとんど揃った2倍体の核を持ち, 軟寒天培地では成長せず, 新生児ラット皮下に移植しても増殖しない. Fe^<3+>-NTA25μg/ml鉄濃度添加するとRL-34細胞は3日後には大部分が変成に陥る. しかるに50μg/ml鉄濃度では, 3日後に耐性株を多中心性に生じ, 15日後にはpileupして来た. この細胞は軟寒天培養で増殖し, 新生児ラットの皮下に3週間後腫瘍を作り(5/5)その3/5に肺に腫瘍の移転が認められた. 以上の結果は正常ラット肝細胞は培養基に添加したFe^<3+>-NTAの生ずる活性酸素により発癌したことを示すものである. 次にヒトの脾より抽出したヘモジデリンをアスコルビン酸, クエン酸, ADE, などで可溶化する条件を調べたところグルタチオン等の還元剤の存在下でpH5.5以下で容易に可溶化すること及び可溶によって生じた鉄錯体はH_2O_2からOHラジカルを産生することがDMPOをトラップ剤としてESRにより証明された.
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